やわらかいシステムズ・アプローチ 

 ぼくの方法論が「システムズ・アプローチだった」という観点から振り返ると、

  • 機械工学の決定論的な世界観に限界を感じ、ハード・システムズ・アプローチ(システム工学的な目的志向:制御・生産・経営・管理工学などに共通する方法論)を習得
  • それを活用することで直面した障壁から、ソフト・システムズ・アプローチ(人や組織の問題、文化や目的の違いなど多様な価値観を前提とした方法論)を習得

してきたことになる。近年は主に、正解のないクリエイティブな領域で、ソフトなアプローチを実践的に磨いてきた。多国籍プロジェクトを含めて様々な現場を渡り歩いたが、デジタルコンテンツの分野、ベンチャーや新規事業に身を投じなかったら、短いサイクルでこの訓練を繰り返すことは出来なかったと思う。

 残念ながら失敗から得た教訓や経験値も多いけれど、このアプローチが「有効である」手応えは得られた。(いろいろとワガママを通して、皆様方にはお世話になりました・・・)

 ぼくの手掛けてきた現場のビフォーアフターは「抵抗勢力をつくらない改革」であり、経済学で言うところの「パレート改善(パレート最適化)」に近い。そういった論拠を端的に説明できないもどかしさを抱えてきたが、各種の組織システム論からヒントをもらって全体像のようなもの(相図?)を描くことができた。どこで線を引くべきか、どう言い表すかなどは様々な見解があると思うが、ぼくは意思決定をこんな世界観で行ってきた。

 これがプロジェクト管理の成果を高めたり、混乱している現場を建て直してきた「秘訣」になる。(新規性を求められることが多く、単品製作となるデジタルコンテンツをプロデュースする際の「信号機」のメタファーを文末に記したのでご参考まで。)

 目の前の課題が「どこの相にあるか?」で法則性が変わるため、一緒に働いた人(特に部下として)は戸惑うことがあったかもしれない。ぼく自身も一貫性を心掛けながら、結局は感覚に頼って言うことが変わっている自覚があったため、自己矛盾に感じていた。

 こういった科学的(?)マネジメント理論も、政治学/社会学的に捉えればイデオロギー色を帯びてしまう。「技術的な制約、物理的な限界」が頭に入っていると、「現場が譲れないライン」は明確に判断できるが、方針を調整する場で「絶対に譲歩しない」ことは相手側の面目に関わる。協力が得られなくなるどころか、思わぬ妨害や報復を招く恐れすらあった。

 ソフトシステムズ方法論:SSM という研究において、組織の変革を成功させるには、
 (1)介入分析 (2)社会システム分析 (3)政治分析
これら3つの分析と、それを踏まえた働き掛けが必要とされていた。特に(3)は承認プロセスや決裁権に関する事前分析で、利害調整に対する組織の姿勢を占うものになる。

 ぼく自身がボールを持って調整する際には、「ハード ⇒ ソフト」の2段階のアプローチで判断材料となる「前提条件」を取り扱ってきたが、これで実務的な問題は(ほぼ)解決に向かう。この点(①理 ⇒ ②情)を少し意識するだけで「未来を変える」ことができる。
 しかし、その合意を交渉の場で「勝ち取る」ことは、「ハード(理)> ソフト(情)」の価値観を相手側に強いることになり、禍根を残す。それでプロジェクトを破綻させてしまっては本末転倒である。

 あくまでも目的は、新しいもの/面白いものを生み出すこと、商品やサービスの付加価値を高めるところにある。ぼくの「やわらかさ」は、まだまだ磨きを掛ける必要がある。

参考:新規性が高い案件をマネジメントする際の判断材料

 GREEN  : 安全・安心、確実性の世界
マニュアル化できる作業、ワークフローが確立されている仕事
前例がある繰り返し案件、高い精度で予算や日程の見積もりが可能
品質や納期の堅守が求められ、大きな失敗が許されない守りの領域

 YELLOW : 確率・統計、バランスの世界
課題を要素分解して、GREENとREDに仕分けて考えることができる
参考事例を元に、安全率を高めに掛けて見積もりに余裕を持たせる
いかにトライ&エラーの効率を高めるか、攻めと守りのバランス領域

 RED  : リスク、不確実性の世界
前例がなく、やってみないとどうなるかわからない実験的な仕事
ダメ元でチャレンジする場合も、最悪のケースの対応策は考えておく
リスクを冒してリターンを狙う、ギャンブル性がある攻めの領域

 技術的な観点からは「RED100%」といった案件は存在しない。
・RED10% と GREEN90% のYELLOW
・RED30% と GREEN70% のYELLOW
など仕分けして考えれば、リスクを客観的に評価・管理することが可能になる。

※「合理性には3つの形態(Maximizing/Bounded/Organic rationality)がある」と過去にウィリアムソンという経済学者が書いていたらしい(翻訳本がないので未確認)が、おそらく同様の意味ではないかと思っている。

 失敗したケースの多くは「GREENの領域に、REDの姿勢で攻め込んだ」「REDの領域を、GREENの価値観で評価した」など、YELLOWの領域で求められるバランス感覚を欠いた末の自滅だった。それは本来であれば、対話によって未然に防げたはずだった。

 

成功と失敗の法則