4.タネ明かし

“ 己の立てるところを深く掘れ ”

 いわゆる「人文社会系」の知識から多くの気づきを得ると共に、過去の経験の「価値の大きさ」を再認識させてもらえた。そこで、自分自身のバックボーンについて改めて深掘りしてみたくなった。それは自らの思考回路の「特長」を客観的に把握する作業になった。

○ 管理会計
実務の中で習得したので自己評価になかったが、ぼくは「管理会計」をマスターしていた。経営幹部とは「現場の管理者」として対峙することが多かったが、仮に「技術も現場もわかる管理会計のプロ」と伝えていたら、全く違った反応になっていたかもしれない。

○ OR:オペレーションズ・リサーチ
また、バラバラだったノウハウを大きく括れる定義「オペレーションズ・リサーチ」に辿り着いた。欧米の軍事戦略を発祥とする研究が産業界に転用され、コンピューターの普及に伴って様々な分野で活用されている。(→ORを探せ!)問題を「俯瞰的に」整理して導き出した解決策が、ぼく個人の願望や主義主張と受け取られてしまうことによく困惑してきた。

○ 意思決定法
そして「合理的な意思決定」を支援する手法(AHP:階層分析法、TOC思考プロセスなど)から受けた強い影響があった。これが時には冷徹に感じられて、決断に心理的な葛藤を伴うケースもある。ぼくの場合は(20代前半の)金属との格闘が、意思決定から主観を排する良い訓練になっていた。

 ぼく自身はバリバリの理系タイプでもないし、近年はとにかく「やわらかさ」を心掛けてきたので、理詰め一辺倒なアプローチは極力控えてきたつもりだった。それでも、戦略性に欠ける仕事の進め方を眺めていると「内なる声」としてアラームが発せられることがある。

 開発や制作の仕事は、様々なフィードバックを受けながら進められる。トップダウンで持ち込まれる企画には、そういった手順を踏んでいないものも多い。そのまま実行フェーズに移してもうまくいかないが、「走りながら考える」タイプのプロジェクトには大きく化ける可能性もあるため、どうハンドリングするか「腕の見せどころ」になる。
 一方で、実現性が乏しかったり、特に既存の事業に大きな混乱を招くような場合には、顧客や取引先を巻き込む前に「軌道修正」しておかないと大変なことになってしまう。

 ぼくは「現場の管理責任」といった立場から(良かれと思って)そういった役割を無頓着に果たしてきたが、それは提案サイドから見れば「現場からの反発」と受け取られかねない。新たな挑戦に「一緒に取り組んでいた」つもりが、いつの間にか「抵抗勢力」のレッテルを貼られてしまう・・・以前の自分には、この相対的な観点がすっぽり抜け落ちていた。

 矛盾するようだが、ぼく自身もここぞという局面では「人間力」の勝負になると思っている。しかし、異論反論を強引にねじ伏せ、排除して話を前に進めたところで、アウトプットにつながる保証は何ひとつない。ここでも「北風と太陽」の例え話がよぎる。

 多分ぼくの場合は(可能な限り)パワーゲームに持ち込まず、状況が好転するまで「合理的に」「粘り強く」施策をやり切ろうとしてきたのだと思う。それが見る人によっては「弱腰」だとか「頑固で融通が効かない」姿勢に映っていたのかもしれない。

 アピール不足ばかりが反省点になってしまうが、自分の中で整理できていなかった問題については、他人にうまく説明できるはずがなかった。泣きたくなるような想いも散々してきたけれど、その原因は「自分自身の調整能力の不足」に他ならなかった。