なぜ制作現場の管理は難しいのか?

第1部:中国におけるマネジメント体制と課題china_title(2)スタジオマネジメント機能 なぜ制作現場の管理は難しいのか?

一般的に「難しい」と言われていますが、ストレスが生じる=期待値と現実にギャップが生じてしまうポイントをまとめてみます。

a ) 安い人件費?(→ 長いリードタイム)
単純に人件費の安さに期待されますが、現地は「1日8時間 × 週5日間」労働が基本で、残業や休日出勤への意欲には個人差があります。最近は「客先の予定に合わせる」感覚も根付いてきましたが、旧正月や国慶節など現地の生活習慣が優先される時期には現場が完全にストップしますので、事前の調整が必要です。
仕様書の翻訳など着手までのロスタイムがあり、発注先から届く文書の完成度がそのまま作業効率に響きます。ディレクションに通訳を介するロスも考えると、新規の取引で慣れない案件の場合はリードタイムが日本の1.5~3倍にも膨らんでしまいます。短納期の込み入った案件などは、人件費が割高でも慣れている日本人で手際良く済ませた方が圧倒的に経済性の高い場合があります。

b ) 修正回数が多くなる理由(・・・的外れなのか、的が用意されていないのか?)
いったん仮納品してから修正が何度も繰り返されると、双方のストレスが高まるのでなるべく避けたいのですが、現実的には様々な事情で発生します。原因として、大きく分けて2つのケースがあります。「弓矢を的に当てる」という例えをすると、

A.的の位置は明確だが、矢が的に当たらない。
B.的の位置が不明確で、矢を放ちながら的の位置を探っていく。
mato
Aについてはスキル不足やキャスティングのミスが原因で、中国側での改善が求められます。中国人でもトップクラスの技術力は非常に高く、末端の作業者でも社員教育や技術研修をやれば顕著な効果が出ますので、この点は時間の問題で解決できると感じます。
一方でBについては、フロント営業や客先など上流への働きかけが必要で、間に入っている日本人が積極的に動かなければ解決は不可能です。現地の作業者に対して、

1.的を明確に示す。
2.的との「ずれ」を明確に示して近づけさせる。

ということが日本人ディレクターに求められる役割ですが、必ずしも発注サイドで的が明確に定まっているとは限りません。突き詰めれば客先との連携や信頼関係が最も重要なのですが、これは残念ながら中国の現場サイドではコントロールできないことです。最初からトライ&エラーを前提としたスケジュールを組むなど、客先も巻き込んだライン全体での取組みがスムーズな納品対応につながります。

c ) 文化の違い?
中国人に「山」や「森」を自由に描かせると、我々が思い浮かべる風景とは異なった景色になります。求めているイメージを的確に伝えるために画像の資料を多用しますが、特にキャラクターデザインにおける「カワイさ」などは我々日本人にとって「的外れ」になりがちです。こういった「文化の違い」を実感する機会は日々ありますが、特に仕上げに近い工程でニュアンスのギャップを埋めていく意思疎通は非常に神経を使います。
文化の違いが「ある」という前提から、体制面でも、精神面でも準備をしておかないと、煩雑なコミュニケーションの全てがストレスに感じられてしまいます。

以上の3点がポイントです。

・・・実は、同じ出来事を難しいと感じるか否かは、当人の「気の持ちよう」といった面もあります。中国ビジネスに関わっている人とは「中国だから」「中国人だから」という話題になりがちですが、これにはふたつの意味が含まれているように感じます。

  • 現場に対する寛容な姿勢(昔は日本でもこうだった、長い目で見よう)
  • あきらめる理由(何をやっても無駄・・・やらない言い訳)

日本料理店で酒を呑みながら「中国だから」「中国人だから」と激励し合うわけですが、粘り強く取組んでいこうという意味でも、面倒を避けてやり過ごそうという意味でも、双方に使える便利な言葉です。この「中国だから」「中国人だから」というカードをいったん禁じ手にしてみると、中国人をマネジメントする課題の本質が見えてくる気がします。

次のパート「(3)人事・採用・次世代リーダー育成」については、中国の現場、中国人のマネジメント関する本質的な内容になりますので、第二部として解説させて頂きます。