なぜCG業界の通訳は難しいのか?

第1部:中国におけるマネジメント体制と課題china_title(1)ブリッジ機能 なぜCG業界の通訳は難しいのか?

まず、一般的な製造業などと比較して難しいと言われるCG制作現場の通訳について。
専門用語が多いのはどの分野でも同じだと思いますが、通訳として経験豊富な人でも機能できるようになるまで少し時間が掛かります。その理由について整理してみます。

a ) 通訳に求められる能力
CG制作現場の通訳としては、下記のような能力が求められます。

  • 語学力 ・・・・ 5年~実務経験

まず日本語の専門的な勉強を5年程度した人、できれば日本語を使った実務経験のある人。四年制大学の日本語学部を卒業して日本語検定一級を持っていても、会話ではスムーズにコミュニケーションできない人も多いので、面接でしっかり確認することが大切です。

  • 専門用語 ・・・ 1~3カ月

最初はいちいち解説しなければいけませんが、業務の範囲で使用する用語がひと通り出尽くしてしまえば日常の通訳はスムーズになります。それに1~3カ月を要します。日本のエンタメ業界に詳しくなくても実務上の影響はありません。(経験を重ねた後でプロデューサー的な活躍を期待するか?といった長期的な観点から、採用時に考慮する場合があります)

  • 段取り力 ・・・・ 才能?

ただ言語を変換するだけでなく、通訳として間に入って調整を重ねながら、ワークフローの組み換えやルールづくりなどに貢献できるのが理想です。この点を経歴や資質の面から見抜くのは採用担当のウデの見せどころです。日本語を話せるバイリンガルから「デキそうな人」を選んでリーダー候補として育成する、これが最善の採用活動になると考えます。

b ) カタカナの専門用語が多すぎる!?
中国では、英語の専門用語の多くは漢字に置き換えられています。
例えば「Modeling = 建模」「Motion = 动慢」「Rendering = 渲染」といった具合です。
日本語では、そのままカタカナ英語ですが、「このスフィア(Sphere = 球体)をデュプリケイト(Duplicate = 複製コピー)して・・・」といった作業手順、日本語の中で急に発せられるトランスペアレンシー(Tranceparency = 透明度)やアトモスフィア(Atmoshpere = 雰囲気:空間中の霧の量)といった用語を瞬時に中国語に置き換えるのは、経験豊富な通訳でも無理があります。
専門用語は現場で実務に触れていれば一定期間で身につきますが、立ち上げ当初など人員が不足している時期は急なゲスト対応でヒヤヒヤすることが多くありました。(通訳の脇で補足の解説を行いますが、意思疎通に時間が掛かるので会話の密度が下がってしまいます)

c ) 思いやりのある、回りくどい表現
語学的な日本語の曖昧さも根底にありますが、修正の作業指示など「お手紙」のように情緒性を含んだ表現になることが多いです。簡潔に「ここがダメだからこう直せ」と書かず、相手が察して自発的に修正するように促す・・・日本的な美徳としては理解できますが、外国人にニュアンスを汲み取って意訳させることは誤解のリスクを伴います。
込み入った修正の場合など、客先からきた指示をそのまま現場にリリースせずに、いったん自分が書き直して(日本語から日本語へ)から中国語に翻訳してもらったりしています。
・労いの言葉などは前後の挨拶として伝えて、作業指示の文章に混在させない。
・内容から「要するに」という結論のみを抜き出し、単刀直入に列記する。
・箇条書きに表現を変えて、作業項目としてナンバリングする。(チェックリスト化)
このような点に配慮しますが、経験的にはこの手間を掛けた方が完了までの回り道を減らせます。

d ) 感覚を言語化する限界
表現に擬音が多いのはエンタメ産業の特色ですが、「このテカリをもう少しヌメヌメした感じに」といった指示があると、バイリンガルが集まって「テカリ」「ヌメヌメ」に関するディスカッションが始まります・・・最終的に画像検索で写真を何枚も見せたりして求めるニュアンスを確認しますが、イメージや感覚を伝える方法として文章は振れ幅が大きく、分かりやすい図解や参考画像を使った説明の方が誤解は少ない(語学力の不足を補って余りある!)というのが実感です。

全般的に、作業者のスキル不足から生じるテクニカルな問題よりも、コミュニケーションのロスにより発生する問題の方が、スケジュール進行に大きな影響があります。チームにおける通訳の役割が、単なる言語の変換担当であるか、ワークフロー全体をハンドリングするプロジェクトマネージャーを兼ねているかは、ライン全体の生産性を大きく左右します。