企画や演出などの仕事は楽しくてやりがいがありますが、そこにも制約は存在します。リスクをマネジメントしてチームに余裕や安心感が生まれると、最終的なアウトプットにも好ましい影響があることは経験上(証明は難しいですが)明らかでした。
誰しも「マネジメントの強化」には抵抗感や警戒心を抱きます。さりげなく現場に入った方が状況を正しく把握できることもあり、過去に一緒に仕事をした方にも以下のような説明はあまりしたことがありませんでした。
20代の後半にデジタルコンテンツ業界に転身しましたが、その前はメーカーの「生産技術」部門で設計をしていました。機械工学から落ちこぼれて「はみ出した」自己認識でしたが、近年になってこれを改めることになりました。

横串に位置づけられる、システム工学から管理・経営につながる分野(=IE)の意識が高かったのだと思います。工学的なアプローチで身につけたマネジメントの基礎が、思考回路のベースにありました。(⇒ 生産技術、IE:インダストリアル・エンジニアリング)
もともと技術者でクリエイティブ志向だったため、まずはCG制作ソフトの操作を習得しました。何年か掛けて自身の技術・技能を高める計画でしたが、当時は業界の黎明期でワークフローが確立されておらず、ライン全体の課題が山積していました。

現場の仕切り役を命じられることが多かったため、マネジメントの経験を実践的に積む機会が得られました。結果的に、CG制作者としての技術力(縦軸のスキル)は広くて浅いものになりました。
また、当時はインターネットの急速な普及によって、マーケティングの分野にもデジタル化の波が押し寄せていました。当時の技術は映像制作に比べると単純だったので対応できましたが、やはり全体をまとめる役割が不足していました。

マーケティングは専門外でしたが、論理性や分析力が問われる分野なので、工学的なアプローチとの相性は悪くありませんでした。考え方がサプライチェーンの情報共有や改善手法に近かったこともあり、過去の知識や経験が役に立ちました。
コンテンツ制作・開発全般について多種多様な関係者をまとめる役割になると、常に「人と組織」の問題に直面しました。各分野の専門家同士でも見解の相違があるため、その調整にコミュニケーション能力、技術的な知識と判断力、合意形成のノウハウが求められました。

加えて、管理部門や営業部門を交えた調整になると、より複雑なコミュニケーションの壁がありました。組織全体の連携がテーマとなり、人材育成や教育研修に実践的に取り組みながら、畑違いになりますが認知心理学などにも興味を持ってその手法を取り入れました。
海外拠点や多国籍プロジェクトも経験させて頂き(語学は堪能ではありませんが)判断の的確さや調整能力といった特性から、一定の役割を果たすことができました。自分のノウハウに普遍性があり、あらゆる環境で応用できる手応えが得られました。

ぼく自身が縦軸のスキルを磨くよりも、ライン全体のパフォーマンスを高めた方が、経済的な効果は遥かに大きい(N倍化できる)と考えてきました。実際にうまく回って成果につながったケースでは、そういった舵取りの役割を任されていました。
表面的に「ゼネラリスト」に見えるためか(実際そうなのですが。。)技術や現場と距離がある方からは「(縦軸の)スペシャリストでない」→「手を動かさない、作業をしていない」→「何も仕事をしていない!」と断罪されることがあります。「横軸のスペシャリスト」としての効能の大きさを、まず理解して頂くことが課題になります。
システム工学のノウハウは、目的と組み合わせることで「〇〇システム工学」と具体化できます。ぼく自身の経歴を〇〇に入れると「機械」→「生産、信頼性」→「教育、管理」→「経営(マーケティング)」と一貫した流れが見えてきますが、
経営工学は,企業,病院,行政体,学校のような「目的を持った社会的な組織」を対象にして,「その組織の目的」が効率的に達成されるよう「組織を作り」,そして「組織の諸活動」を上手に管理するための工学である.(経営工学総論 : 辻正重 著)
現実の課題に正面から向き合ってきた結果として、辿り着くのは「組織づくり」でした。
(最近覚えた「ヒューマンリソースビジネスパートナー:HRBP」という機能に近いイメージです。)
組織を統治する方法に「これが正解」というものはありません。ぼくのアプローチもひとつの「流派」であり、違った方法論で成果を出している方もいます。例え結果が良くても、前提となる相互理解がなければ(流派が違えば)波風が立つ場合もあります。あくまでも「少数派」である可能性を忘れずに、関係者への働き掛けに努めたいと思います。