お人好し 2.0

ある取引先とトラブルになり、代理人の事務所を通じて内容証明が届いたことがあります。直接的なコミュニケーションは禁じられました。驚いて弁護士に相談すると「こちらに非はなく、相手側が不当に利益を得ているのだから賠償請求するべき」とアドバイスされました。

最終的には穏便に済ませることにしたのですが、その際に弁護士から言われた「お人好しだから」という言葉に、大きな違和感がありました。

自分の課題は、そこをきちんと説明できるようになること、理解して頂くことではないかと感じた次第です。

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ぼくの強みは「技術の本質を理解できる」「現場のマネジメントに長けている」「生産性を向上できる」ことで、これまで経営と現場をつなぐような役割で組織に貢献してきました。

プロジェクト型の業務(新規事業や新サービスの立ち上げ、不採算部門の再建など)において、各方面からの意見や要望を全てクリアすることはほぼ不可能なので、それらの調整を「誰か」が責任を持って行わなければなりません。不満や批判をゼロに抑えることは難しく、その役割を引き受けることは処世術に反します。

そんなリスクを承知の上で、矢面に立って進めてきたプロジェクトが「無に帰す」ことを避けたいのは当然です。期待効果(と内紛による機会損失)の経済規模から考えれば、自らの利害は些細なものでした。プロジェクトの全体像を理解している立場だったからこそ、その成果を「守る」判断を優先せざるを得ませんでした。

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本来であれば、そういった貢献を汲み取って頂きたいところでしたが、組織には様々な立場の方がいます。強力な後ろ盾でもあれば別でしょうが、推進役として「責任を取る」ことでしか事態の収拾を図れないような状況に陥ることもあります。そのリスクを避けるには余計な調整や働き掛けをしなければ良いのですが、それではプロジェクトはうまくいきません。

トラブルになれば「組織を守る」ことを優先するのが組織の論理です。過去を振り返ると、残念ながら何度か(コンプライアンスに抵触する形で)契約解除や支払いの制限を受ける事態に見舞われました。これがプロジェクト管理のスキルを磨いたことで、ぼく自身が背負ってしまったジレンマです。

理解者に恵まれて、継続的に組織に貢献できるのが理想ですが、そこには難しい現実がありました。プロジェクトの成功という「目的」達成のために対価を頂き、その責任を全うすることは単なる「お人好し」では務まらないと思います。

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労いの言葉でも頂ければ気持ち良く役割を終えることができますし、そうでなくても(せめて)契約通りの対価を頂ければ「プロとして責任を果たした」と切り換えて前に進むことができます。こういった姿勢は、日本の雇用文化では理解されにくいところがあるようです。

これまでの説明不足を反省すると共に、理解者を増やす努力が足りなかったと思っています。プロジェクトの経験値を明かすことは機密保持の面から難しい点がありますが、そこでは自分の「コンプライアンス意識」がプラスに働きます。(過去のトラブルでは、それがマイナスに作用していました。)是非ご用命ください。

何年も前の経験がそのまま役に立つことはありませんが、普遍的な学びは多く含まれており、ぼくの中に蓄積されています。時代が違えば、ハラを切らされたりクビを撥ねられるような(?)顛末に巻き込まれても、幸い現代では生き長らえて次の挑戦の機会が得られました。こうして積み重ねてきた経験やノウハウを還元して、成果につなげていきたいです。

リアライズ・プロセスデザイン
佐々木 聡

システムズ・アプローチと「学習する組織」

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